ちょうどよく忙しい

2024有馬記念に寄せて.
雑記
競馬
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Author

Hidezo Suganuma

Published

December 21, 2024

ドウデュース取消の報に接したのは金曜の昼下がり,Zoomでの研究ミーティング中のことだった.折から風邪を引いてしまい微熱でなかば朦朧としていることもあってか,8時間ほど経過した今になってもどこか現実感がわかない.本当はさっさと来週の授業資料を作らなければいけない身分なのだが,一人の部屋で所在なくユンケルの空き瓶を弄んでは一部が灰色に塗りつぶされた出馬表を眺めてばかりいる.

とりあえず腹くらいは満たさねばと思い,這々の体でコンビニまで出向いて「赤いきつね」を購入した.そこまでは良かったのだが,うっかりお湯を手にこぼして地味にデカい水疱をこさえてしまったところで,気力を完全に喪失してしまった(そういえば蓋を開けると摩訶不思議なことに2枚入っているはずの「お揚げ」が両方とも真っ二つに割れていたのだが,輸送段階でいったい何が起こったのだろう).この限界きわまる状況でもとりあえず遂行できるタスクといえば,かくのごとく誰が読むともわからない駄文をしたためることくらいである.

もともと有馬現地参戦の予定はなかったのだが,これで現地でドウデュースの走りを目の当たりにしたのは今年の天皇賞(秋)が最初で最後となった.リバティアイランド軸で買っていたので最後の直線はむなしく頬の熱がスーッと引いていく感覚を味わうだけであったが,先行各馬を次元の違う末脚で抜き去るドウデュースを目にしたときは,いささかの誇張もなく肌に粟を生じた.若輩の長くもない競馬歴ではあるが,現地で見たレースのなかでは間違いなく3本の指に入る衝撃だったといえる.歴史的名馬のキャリア集大成を目撃する機会が失われてしまったことは,本当に残念でならない.

2024天皇賞(秋)発走の直前.インフルエンザワクチンと同様,成人であれば年に1回はG1デーの競馬場の空気を身体に摂り込むことが必要である

ちょうど11月の頭にバンコクを訪問する用事があったので本当なら払戻金で王侯貴族のごとく豪遊したかったのだが,残念ながら叶わなかった(悲しいことに,この手の皮算用が現実化した覚えがない).それでも物価がさして高いわけではないので,万年金欠の貧乏大学院生の身分であってもスケジュールの範囲で観光などやりたいことはおよそ全部できた.願わくばあらゆる国際学会を東南アジアとその近辺で開催してほしいものである.ここ数年でタイバーツはかなり上がっているらしく,同行していたタイに心得のある友人は折に触れて「昔はもっと安かった」とこぼしていた.

チュラロンコン大学(จุฬาลงกรณ์มหาวิทยาลัย).いっちょ学食を喰らってやろうと食堂に潜入したのだが,現地のQR決済アプリしか対応していないと言われて泣く泣く断念した

11月はちょうど雨季から乾季へと移行する時期にあたり,日中はかなり気温も上がるが基本的には過ごしやすい気候だった.街なかのカフェのテラス席で試みにMacBookを広げてみれば,それだけでワーケーションを愉しむビジネスマンの気分を味わえる.路地からうっすら漂ってくる大麻のニオイすらも異国情緒を掻き立てるスパイスとして下卑た好奇心をくすぐるし,日本人とみるや気さくに声をかけてくる駐在員やベテラン旅行者の方々と酒を酌み交わすのもまた一興である.経済的・時間的な余裕があれば博士論文の執筆期間あたりに長期滞在してみたいところだが,果たして叶うだろうか.

移動中に発見した日系の居酒屋.どこからどう見たって磯丸水産のパチモンなのだが,それはそれとして現地の評判はけっこう良いらしい

例年であれば有馬記念が終わればもう一年が終わったくらいの感慨があるものだが,今年はやることが山積しているせいでそんな気は微塵も起こらない.暇になると変に他人のことばかり気にしてしまう性分なので,忙しいくらいがちょうどいいのかもしれない.じっさい昔の友人達が自分抜きで忘年会(それも普通の学生なら気後れするような高級店で)を開催しているのを先ほどインスタで観測したが,いまの私はワット・ポーの涅槃仏のごとく心の平穏を保つことができている.このくらいの「ちょうどいい忙しさ」を年間を通して維持することを暫定的な来年の目標としておきたい.

もちろん心の平穏なるものタスクの多寡のみによって決まるものではなく,たとえば十分な銀行口座の残高といった他の変数に影響されるのは火を見るより明らかであろう.というわけで,今年の有馬記念は大穴◎シュトルーヴェから一攫千金を狙いたい.もともとが逃げ馬不在のメンバー構成だが,大本命ドウデュースの取消に大外シャフリヤールの逃げ宣言,さらには最内の横山典Jと不確定要素がかなり多く,展開予測が極端に難しい一線となった.抜けた実力馬が不在の状況で乱ペースに陥ることがあれば,無欲の追い込みにもチャンスが巡ってくるはずだ.

見事に大金を手にした暁には来年ベトナム観光にでも行くつもりである.あるいは,身軽なうちにウズベキスタンに突撃するのもアリかもしれない.可能性は(今のところ)無限大である.

<2024有馬記念>

  • ◎シュトルーヴェ
  • ◯アーバンシック
  • ▲ジャスティンパレス
  • △ダノンデサイル
  • △ベラジオオペラ
  • △ローシャムパーク
  • △レガレイラ